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高市首相の「台湾発言」

横浜市立大学准教授
金山泰志(かなやまやすゆき)さん
1984年神奈川県生まれ。
専攻は日本近代史、近代日本の対外観研究
著書は『近代日本の対中国感情』『明治期日本における民衆の中国観』など

高市早苗首相の「台湾有事は存立危機事態」答弁と、それに対する中国の対応をめぐって、中国を公然と敵視し、大軍拡を正当化する論調がメディアやSNSで広がっています。戦前の日本でも、日清戦争以降、反中国や中国蔑視の発言が、大手のメディアだけでなく、子供向けの雑誌などで広がりました。漫画や映像も含めて国民を戦争へと駆り立ててきました。日本の近代メディア史・文化史を専門とする金山泰志横浜市立大学准教授に、歴史から学ぶべき問題点を聞きました。(聞き手 若林明)

敵視が戦争あおった歴史
メディアは冷静な報道を
■今回の首相発言では、右派メディアを中心に首相発言を擁護し、ことさら中国の対応を問題視する報道などがでています。どう見ていますか。

首相の発言を契機とした中国敵視的な反応が目立っていることは、歴史的に見れば決して突然の現象ではありません。
近代以降、日本では政治外交的な緊張が高まると、メディアが感情的な表現を強め、大衆感情を刺激しました。特に戦前は、日中間の緊張関係が高まると、各種のメディアが敵愾心や侮蔑感情を後押ししました。現在のSNS環境では、より短時間で増幅されている点は過去と違いますが、その歴史と今の現象はつながっていると思います。

■近代日本の対中国への感情はどう変化したのでしょうか。

近代以前は中国に文化的敬意や親近感を抱いていた日本人が多数だったと思います。明治維新以後、近代化の過程で、文明化の尺度を「西洋化」とシフトしたことで、中国を「遅れた存在」と見る枠組みが生まれました。
国民レベルで中国への見方が変化する大きなきっかけは、1894年の日清戦争です。メディアは中国の「野蛮」ぶりを強調し、敵愾心をあおりました。やがて、戦局が有利になると、メディアは中国を「嘲笑」や「滑稽」の対象として表現するようになり、戦後も中国蔑視の表現は続きます。

日本近代は、日清戦争に始まり、義和団の事件(北清事変)、対華二十一カ条の要求につながる第一次世界大戦、「満州事変」、日中戦争、アジア・太平洋戦争と中国との関係が問われました。日本社会に浸透したネガティブ感情は近代を通じて根強く残ります。戦争に国民を動員するために国家が強制したことと同時に、メディアが”売れる”表現として自発的、自主的につくり上げたのです。



■「乱暴で人道に外れた『支那』を懲らしめる」という意味の「暴支膺懲」というスローガンもありました。

日中戦争(1937年)の初期に各種メディアで使われた「暴支膺懲」は、単なるスローガンにとどまらず、当時のメディアの漫画や挿絵などの表象と密接に結びつき、国民感情を戦争に動員する「装置」として機能しました。この標語は、日清戦争以降につくられた国民の中国人イメージとピタリと符合していました。

日本では、少年雑誌など娯楽メディアで、「弱い」「滑稽」「悪人、悪者」といった中国人像が繰り返し描かれました。(写真)「暴支膺懲」のスローガンは、「弱くて滑稽だが、悪い存在だから懲らしめていい」という感情と一致しました。「悪人」イメージが戦争への大義名分を感覚的に支え、国民の側で戦争を正当化しやすくする効果をもたらしたのです。

なお、戦前のメディア表象がすべて中国蔑視一色だったわけではありません。
中国古典世界への尊敬(孔子・三国志など)や、「日中親善」を掲げる言説など、複層的な中国観も同時に存在していました。ネガティブな表象だけでは近代日本の対中感情を説明しきれず、多面的な理解が必要だと思います。


■歴史的な経験を踏まえた上で、今のメディアなどの状況は。

高市首相の発言をきっかけに、政治家の発言、メディアの報道・SNSの反応が相互に作用して、感情的な反中国言説が「使いやすくなっている」状況があります。”感情の悪循環”をつくっているのではないでしょうか。メディアの問題でいえば、戦前の日本では中国を敵視あるいは蔑視する感情をふりまきました。同じことを繰り返しているように感じます。”感情の悪循環”をいかに抑制するかが重要です。戦前、メディアは。中国敵視・蔑視的な感情を自発的にあおりました。そのことを教訓としていくべきです。

当然のことですが、事実に基づく冷静な議論と報道姿勢が大切です。
日中間には軍事的・政治外交上の課題が存在します。その問題を考えていくうえで重要なのは、相手への敬意を失わない姿勢です。日本が中国と国交を回復した日中平和友好条約には「善隣友好の精神に基づく」とあります。それを「建前」だということは簡単です。国家間の緊張が高まるときに、相互尊重や友好といった原則を明示的に確認し続けることは意味があると思います。”建前”が語られなくなった瞬間こそ、歴史が忘却され、過去の失敗が繰り返される危険が高まると感じています。

(しんぶん赤旗 2025年12月5日掲載)


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